カテゴリ:路上とビート( 5 )

On the Road, On the Beat, And Load Out#5 苔院の午後のあとで。

 
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苔院の午後は静かに終りを告げようとしていた。苔院は古刹。イケナイ苔院。もう世界がギシギシジュワジュワと音を立てている。坊主と門前の小僧は習わぬHIP HOPでTHUG LIFEまっしぐらだ。そして、四天王も十羅刹も薬師如来も観世音菩薩も大日如来までもが肌を露わにして踊り狂っている。傍らの奥崎ケンゾーと牡蠣崎柿右衛門はぴくりとも動かない。森の漫才師サルーは暮れなずむ青山通りに向かって言った。

「さて。そろそろ、お互いに本当のことを話そうか」
「そうだな。そろそろ本当のことをな」
「あんたは俺に会うまでの長く退屈な人生をどうやってやりすごしてきたんだ?」
「殺しつづけてきたのさ。人間と世界をね。ついでにエッセドーワーブな存在そのものも。そうとでもしなければ退屈で僕は死んでいたと思う」
「なるほどな。で、きょうまでにいったい何人の人間を殺したんだ?」
「42人。正確には41.33333人。一人はとても人間とは言えないような半端人足だったからね」
「そうか。俺にもおぼえがあるよ。人間とは呼べないような半端人足には。 最後に殺したのは?」
「1999年の春の初め」
「相手は?」
「ガジンというメニエール・ダンスがとてもじょうずな奴だ」
「メニエール・ダンスか! 踊り手は20世紀世界に7人しかいなかったというあのメニエール・ダンスか!」
「そうだ。ガジンはとびきりのメニエール・ダンサーだった。テテ・モントリューの弟のアンヨアンヨ・モントリューの弟子でもある。おまけに、ガジンの趣味はめまいだった。完璧なめまいを起こすとものすごい射精をしていた」
「そんなすごい奴をなぜ?」
「話せば長い」
「長くても話してくれよ。これは信義の問題にも属することだ」
「オーケイ。話すよ。でも、ほんとに長いぜ」
「いいさ。ちなみにどれくらい長い?」
「そうだな。伊藤ビー丸が砂糖A丸になるくらい」

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「えええええっ! 太陽が赤色矮星になっちゃうじゃないかよ!」
「そうだよ。僕の抱えている問題はすべて天文単位が必要なものばかりさ」
「わかった。つきあうよ。話してくれ」
「うん。ガジンには二つ年上のお姉さんがいたんだ」
「うん」
「お姉さんの名はビジン。ブスなのにビジン。不思議だろう?」
「不思議だ」
「そうさ。いまでも不思議でならない。なぜビジンさんはどブスなのにビジンなんて名前なんだろうって。きっと、つらい人生だったろうなって。どブスなのにだれもかれもに”ビジンさん””ビジンちゃん”と呼ばわれつづける人生。引き裂かれまくりの人生。そして僕にヒーメンを引き裂かれた」
「えっ!? ヤっちゃったのか?」
「そうさ。僕は縁をもった女の子とは必ずいたすのさ。だが
「だが?」
「だが、ビジンさんは重度の脳ヘルニアだった。脳が頭蓋骨の継ぎ目から飛び出しちゃうという宿痾の病い。業の病い」
「脳ヘルニアだってええええっ! イーヨを世界に向けて解き放つきっかけになった脳ヘルニア!」
「大江健三郎はビジンさんにヒントをえたんだよ」
「こりゃたいへんなことになってきた」

なにがたいへんなことなのかはわからなかったが、森の漫才師サルーの世界においてはたいへんなことなんだろう。そういうこともある。

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Cocaine - JACKSON BROWNE
 
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by enzo_morinari | 2013-04-28 20:17 | 路上とビート | Trackback

On the Road, On the Beat, And Load Out#4

 
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神軍平等兵、日本列島GO'S ON! いつでも過激! どこでも攻撃!
ゆきゆきて、神軍! 知らぬ存ぜぬは許しませぬ! カキザキ、玄能を持て!


偽物ボブとマーサー・ガーサーの登場によって時間は容赦なくねじくれ、われわれは元の時間、元の場所、真冬の昼下がりの日比谷公園の噴水前にいた。

「たとえばこんなふうに」と森の漫才師サルーは言って噴き上げる噴水の軌跡に向かって指先をひとひねりした。宙空で水の軌跡は一瞬身震いしたかと思うとそのまま凍りついた。

「ん? これは?」
「水の軌跡を一瞬にして凍らせるという奇跡の技」
「奇跡か。わるくない」
「へ? 感想はそれだけ?」
「うん」
「ひどいやつだ」
「きみは僕の戦友だから正直に言うけど、僕の人生はこの程度のことで驚くほど甘いもんじゃなかったんだ。ある意味では”奇跡”の連続、僕の日常は”奇跡”で埋めつくされているんだよ」
「うーん」
「日常が奇跡で埋めつくされている人生を想像してほしい。もうあらゆることが退屈で退屈で仕方なくなる。そんな日々から僕が学んだことは”奇跡を分析し、解釈すること”なんだ。いまきみが行った奇跡について言うなら、きみが指を動かしたことと水が氷点下という気象条件にさらされて凍りついたという事実があるだけであるというのが僕の考え。そこには驚くようなことはなにひとつ含まれていない」
「なるほど」
「ことほど左様にいわゆる”奇跡”と言われている事象のほとんどは合理的な解釈と説明が可能だということ。それでも ── 」
「それでも?」
「それでも解釈もできず、説明もつかない事象がいくつかある。合理的な世界からこぼれてしまうものがね。僕はきみとそれらを探し出し、本当の答えをみつけたい」

私が言い終えると森の漫才師サルーは小刻みに身を震わせて泣いていた。嘘泣きだ。

「なんで嘘泣きなんかするんだよ」
「あれ? バレちゃった? いやあ、ここはひとつ泣いておくのが一番感動的かなと思ってさ」
「きみは本当におもしろいやつだ」

真冬の日比谷公園の噴水前から見上げる帝国ホテルが墓標のように聳え立ち、われわれを見下ろしている。鹿鳴館の享楽の調べも聴こえる。燃やした札束を明かりがわりに窮屈袋を探す愚か者の太り肉で脂ぎった姿も視える。「オサレなランチ、わたし的にステキなディナー」とほざく日本語故障機械どもののっぺりとしたグロテスク、醜悪きわまりもないエゴイズムも見え隠れする。世紀末総白痴国家ニッポンの象徴だ。

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そして、奥崎ケンゾーが牡蠣崎柿右衛門を従えてやってきた。1本足りない指で指揮でも執るように牡蠣崎柿右衛門に指示を送る。奥崎ケンゾーは俄に形相を阿修羅に変えると叫んだ。

ゆきゆきて、神軍! 知らぬ存ぜぬは許しませぬ! カキザキ、玄能を持て!

牡蠣崎柿右衛門は言われるがまま、無表情で金槌を振り上げると「ゆきゆきて、神軍。われは神軍平等兵なり!」と言ってわれわれに襲いかかってきた。
 
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by enzo_morinari | 2013-04-13 00:19 | 路上とビート | Trackback

On the Road, On the Beat, And Load Out#3

 
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史上最高の植物漫才コンビ、フェルディナント・フォン・ソシュールミューラーとジャン・ジャック・マグナムを乗り越えることが私と森の漫才師サルーの当面の目標だった。


私と森の漫才師サルーは国会議事堂の正門前で並んで立ち小便をし、警備の警察官どもに追いかけられた。自民党本部あたりで息が切れかけたが、われわれには捕まるわけにはいかない事情があった。マーサー・ガーサー爆弾を持っていからだ。マーサー・ガーサー爆弾は『腹腹時計/都市ゲリラ兵士読本』を愛読していた森の漫才師サルーのものだ。森の漫才師サルーの5歳上の姉は東アジア反日武装戦線のメンバーのパートタイム愛人だった。

赤坂見附の高架を走っていると、みるみる力が漲ってきた。青山通りに出てもわれわれは速度を緩めなかった。緩めるどころかひと足ごとにわれわれの歩く速度は上がっていった。

スウェーデン大使館の近くの高橋是清記念公園の林の奥のベンチ。「苦悩するビーバー・カモノハシよ。われわれは本物の革命家だな」と森の漫才師サルーが言った。そして、ヒップ・ポケットから銀色のボトルを取り出して勢いよくキャップをあけて飲み、袖口で真っ赤な口をワイルドにぬぐってから私にボトルをよこした。ボトルの中身はスピリトゥス・レクティフィコヴァニだった。火の酒。なまくら者を灼きつくす酒。銀河系宇宙一強い酒だ。そのときの私と森の漫才師サルーには強くて揺るぎない酒が必要だった。

私は眼を閉じ、世界のささやきに静かに耳を澄ました。青山通りを群れをなして泳ぐ数百万の『アメリカの鱒釣り』たちが水面を跳ねる音が聴こえ、かれらの黒ずんだ鰭がまばゆく輝くのがはっきりとみえた。

「そのとおりだ。われわれは史上最高の革命家だ」

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夜明けの青山通りを歩いていると、神宮外苑の銀杏並木からマイケル・ヘッジスの『Funky Avocado』を口ずさみながらミスター・ダンディの「エマージェンシー・ジョルジュ・ムスタッシュ」をつけた女の子が現れた。そして、私と森の漫才師サルーの前に立ちはだかった。

「あたしはファンキー・アボカド娘のアサガスエ・カミ。ちゃんとおぼえておくのよ。夜明けの青山通りを歩くときはいつもかならずあたしのことを思いだしなさい。いい? わかった?」
「うん」

私と森の漫才師サルーは同時に答えた。

「それとね、物事を簡単に諦めちゃだめよ。いい? 絶望しても諦めない。絶望でさえ生きる力になることがあるの。わかった?」
「はい」

私と森の漫才師サルーはやはり同時に返事をした。

「ところで、ファンキー・アボカド娘さんは人間ですか? 神様ですか? それとも妖精とか精霊のたぐいですか?」

森の漫才師サルーは妙に改まってたずねた。もっともで的確な質問だ。

「あたしは幻の精よ。眩ましの精でもあるけど。夏にはゲンゲンムシに変身して新ワラシベ・システムの拡大に精を出すの。あなたたちもどう? 新ワラシベ・システムをひと口」
「おもしろそうだけど僕たちは一文無しなんだ」と私は答えた。
「おカネ? おカネなんか一銭もいらないわよ。あたしから1本のワラシベを受け取って、それを価値が右肩上がりしていくようにあの手この手を使って物々交換していけばいいだけのことよ。わかった?」
「すごくよくわかったけど、裏があるんじゃないの? 実はマルチ商法だったとかいう。あるいはインチキ宗教かカルト教団の手を替え品を替えた勧誘とか」
「ないない。絶対にない! 世紀のファンキー・オーバー・ザ米寿のトヨ婆の保証付きよ!」
「ええええええっ! あのトヨ婆が?!」と森の漫才師サルーが驚きの声をあげた。
「そうよ! トヨ婆はあたしのおばあちゃんよ!」
「やります! いますぐ始めます! 新ワラシベ・システムを!」と森の漫才師サルーはウナズキ・ブラザーズの右のほうのように立てつづけにうなずいた。
「あなたはどうする? ピスタチオくんは」
「どうして僕のことを?」
「新ワラシベ・システムを一所懸命やってるとなんでもお見通しになるのよ。で? どうする? あなたはやるの? やらないの?」
「ではひと口乗らせていただきます」

ファンキー・アボカド娘のアサガスエ・カミはラオス色をしたイナバウアー状態のモンクさんが描かれたキャンバス地のトートバッグからみごとにしょぼくれたワラシベを2本取り出した。ちょうど青山通りに朝の光が射し始めたところだった。ワラシベは朝の汚れのない陽の光を受けて神々しく輝いた。青山通りの反対側で偽物ボブとマーサー・ガーサーがわれわれに向かって手を振っているのがみえた。

Load Out/Stay (Just a Little Bit Longer) Live BBC 1978 - Jackson Browne

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by enzo_morinari | 2013-04-12 11:37 | 路上とビート | Trackback

On the Road, On the Beat, And Load Out#2

 
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さあ、出発しよう。そして、歩きつづけよう。いつまでも。どこまでも。ピスタチオのように香ばしく、マカダミアン・ナッツのようにしたたかに。E-M-M


うしろから肩を叩かれる。森の漫才師サルーだった。森の漫才師サルーは噴水の水溜りの中に膝まで浸かっていた。森の漫才師サルーは震えながらヘッドフォンを外すように促す仕草をした。初舞台に立った新人俳優のようにぎこちない動きだったが十分に森の漫才師サルーの意図は伝わった。大事なのは相手に伝わるかどうかだ。それ以外はクソの役にも立たない。吹けば飛ぶような嘘くさいことこのうえもない百万言の感謝の言葉も人助けと称するまやかしの善意も。

「あんたがいま聴いているのは The Brooklyn,Bronx & Queens Band の『On the Beat』だろう?」
「うん。なぜわかった?」
「へっへっへ。耳と勘だけはいいもんでね。生まれつき」
「うらやましい。では、ぼくも。きみは先週からジャック・ケルアックの『On the Road』を読んでいるね?」
「うげっ! こりゃたまげたな。なぜわかった?」
「ふふふ。観察眼と山勘だけはいいもんでね。生まれつき」
「こりゃ、まいったね。おれは森の漫才師サルー。あんたは?」
「苦悩するビーバー・カモノハシ」
「いい名だ。いいともだちになろう」
「うん。そうしよう」
「手始めに乾杯だ」

森の漫才師サルーはそう言うと、ヒップポケットからマイヤーズ・ラムのヒップボトルを取り出した。そして、モリアーティの右ストレートのように勢いよくキャップをあけて飲んだ。ゴルフボールくらいある喉仏が動くのが妙に生々しくて心臓がドキドキした。

森の漫才師サルーはマイヤーズ・ラムを3口飲んでから私にボトルをよこした。私はパラダイスのように用心深くボトルを受け取った。私はマイヤーズ・ラムを注意深くひと口だけ飲んだ。私が飲み終えて息を整え、マイヤーズ・ラムのボトルを返すと森の漫才師サルーが言った。

「おれがマカダミアン・ナッツで、あんたがピスタチオということでいいのかな?」
「いいんだよ。それでいいんだ」
「香ばしさと旨味ではあんたにはかなわないけど、歯ごたえのよさとしたたかさならおれだって負けちゃいないぜ」
「うん。わかってるよ。きみの言うことはとても的確で簡潔でわかりやすい」
「ありがとう。では、出発しよう。そして、歩きつづけよう。いつまでも。どこまでも。ピスタチオのように香ばしく、マカダミアン・ナッツのようにしたたかに」

いったいどこに向かって歩けばいいのかはちっともわからなかったが、とにかく歩きだすことになにかしらの意味があるように思えた。いままで生きてきた場所や街とはちがう場所、ちがう街。そして歩いてきた道とは別の道。ほかの街にはまた別の道があるんだろう。そんなことを考えていた。

THE ROAD - Jackson Browne

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by enzo_morinari | 2013-04-12 04:11 | 路上とビート | Trackback

On the Road, On the Beat, And Load Out#1

 
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ビートきかせてGO! GO! GO!


日比谷公園の噴水から渋谷金王坂の歩道橋上までの話だ。

いまに至るも唯一の友人である森の漫才師であるサルーと出会ったのは1981年の冬のことだ。その日、私は家庭教師のアルバイトをキャンセルし、朝から銀座地球座で『ウディ・アレンの誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう』をみたあと、有楽町スバル座で『レイジング・ブル』をみて、さらに銀座の裏通りにある二番館で『ブリキの太鼓』と『エレファント・マン』と『戦国自衛隊』と『ブラック・サンデー』と『マッド・マックス』と『アルカトラズからの脱出』と『白昼の死角』と『エイリアン』と『蘇える金狼』と『チャイナ・シンドローム』と『ルパン三世 カリオストロの城』の11本立てを途中までみて、自分のそれまでの人生とやってきたことと現在抱えている問題とやっていることのあまりの馬鹿馬鹿しさに御成敗式目42巻分の舌打ちをしてから大股で日比谷公園に向かった。

途中、丸の内警察署の入口にいた立哨のひとの良さそうな警察官に「バーカーカーバーチンドンヤーオマエノカーチャンデーベーソー!」と愛情と愛嬌と悪意たっぷりに告げた。

気分は映画館を出たときよりずっと良くなっていた。しかし、誰でも、一人の例外もなく、映画館を出たときは世界に対して謙虚にならなければならない。さもなければ大きな失敗をするか痛手を負う。私のように。東映のやくざ映画を何本みても任侠にはなれないし、『ロッキー』を全シリーズみたところで世界チャンピオンどころかカットマンにもなれないし、フィラデルフィアの街が微笑んでくれるわけでもない。『ランボー』が一人ぼっちの軍隊を組織するためのバイブルにはならないということだ。

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私は人とすれちがわないように注意深く歩き、日比谷公園の噴水にたどり着いた。そして、噴水の縁に座り、ウォークマンで The Brooklyn,Bronx & Queens Band の『On the Beat』だけをいれた120分のカセット・テープを聴きはじめた。冬の日比谷公園の噴水の周囲にはなにひとつビートらしきものはなかったが気分は上々だった。なぜかって? 大きな山を踏むからだ。世界が、少なくとも日本が、もっと控えめに言えば、霞が関と永田町周辺がひっくり返るような山を。そして、森の漫才師サルーがやってきた。

On the Beat (LP Version) - B.B. & Q. Band

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by enzo_morinari | 2013-04-11 22:24 | 路上とビート | Trackback