カテゴリ:彼女のコルドン・ブルー( 1 )

8丁目75015番地の朝/彼女のコルドン・ブルー

 
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 パット・メセニーとチャーリー・ヘイデンの『Cinema Paradiso - Love Theme』が静かに終わり、天野清継の『AZURE』がかかる。天野清継の『AZURE』はアジュア・キングフィッシャーが飛翔するアジュール海岸8丁目75015番地の朝にこそふさわしい。部屋には肉の焼けるにおいとさまようオリンポス山の山頂からやってきたさまざまの果実が熟れて放つ濃密なにおいが漂い、舞い踊っている。そして、彼女は思う。
「また失敗だわ。フォアグラとオレンジなんか挟むんじゃなかった。イチジクだけにしておけばよかったのよ。いったい、わたしの本当のコルドン・ブルーはどこ? 第一、朝から肉なんか食べるべきではなかったのよ。まったくあなたはなにもわかっていない。わたしのコルドン・ブルーが消えたのは全部あなたのせいよ。いいこと? 肉はね、肉は追悼と追憶の夜に食べるものと神様が決めたのよ。おぼえておいて!」
 もちろん、いまや彼女のコルドン・ブルーは跡形もなく消えてしまった。もう何年にもなる。

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 彼女のコルドン・ブルー。砂漠をゆく王女と王子の夢の旅路を照らすペルシャン・ブルーでもなく、世界のすべてを焦がし、灼きつくすコバルト・ブルーでもなく、F1大宇宙にひと際まばゆく輝いたエイドリアンニューウェイ・ブルーでもなく、天国へと誘う Pau 'Ole Ka 'I'ini HAPA BLUE でもなく、メローなロスト・ワールドの週末を満たす Ode-To-A-Kudu-Blue でもなく、彼女自身のコルドン・ブルー。

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 それでも、いつかの遠い日の夏、最終の桜木町行きを待つ幻の渋谷駅の1番線ホームからは渋谷川のせせらぎと五島プラネタリウムのときめきが聴こえ、視えるはずだ。アジュア・キングフィッシャーが飛翔するアジュール海岸8丁目75015番地の朝にふさわしい彼女のコルドン・ブルーとともに。それまでは天野清継の『AZURE』を小さな音で、ごくごく小さな音で繰り返し繰り返し聴こう。彼女のコルドン・ブルーなアジュア・キングフィッシャーが飛翔するアジュール海岸8丁目75015番地の夏の朝を追悼し、追憶するために。天野清継は横浜山手・外人墓地前の「絵の樹亭」のクレープが大好きだ。酒は飲めない。

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 Azure - 天野清継
 Ode to a Kudu - George Benson
 Cavatina - HAPA
  
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by enzo_morinari | 2013-03-26 12:33 | 彼女のコルドン・ブルー | Trackback