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マイルス・デイヴィスの左手と泡とともに消えた夢

 
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MARTIN Committee Model ── マイルス・デイヴィスが愛用していたトランペットだ。1950~60年代、ハードバップ全盛期のトランペッターたちにもっとも多く使われていたモデルでもある。ファッツ・ナヴァロ、ディジー・ガレスピー、ケニー・ドーハム、リー・モーガン、ア-ト・ファーマー、チェット・ベイカーらも使用した。最近ではクリス・ボッティやウォレス・ルーニーらがMARTINユーザーである。「暗い音/Dark Sound」を好むミュージシャンはMARTINのトランペットを好む傾向がある。

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マイルス・デイビスは終生、MARTINのトランペットを愛用した。ギターのMARTINとはまったくの別会社である。現在はセルマー傘下にある。マイルスが愛用したMARTINのコミッティー・モデルは正確な音程を取るのが難しいとの評価があり、音程重視の古典楽曲の演奏家たちからは敬遠されている。それくらい繊細、センシティブな楽器であるからこそ「マイルスの泣き音」を表現することが可能であったとも言える。

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さて、吾輩はいまから20年以上も昔の「泡の時代」の真っ只中に、マイルス・デイヴィスが実際に使っていたトランペットを手に入れようという無謀きわまりない企みを実行に移したことがある。吾輩は30歳そこそこで、いまから思えば冷や汗が出るような怖いもの知らずの若造小僧っ子だった。

つてをたどって石岡瑛子や内山繁や金子國義ら、生前のマイルスと親交のあった人物たちを通じて先方の代理人に何度もオファーしたが答えはいずれも「NO!」「IMPOSSIBLE!」だった。無理もない。まだマイルスがBye Bye Black Birdして日も浅く、マイルスの遺品がどれほどの「市場価値」を持つのか未定の時期だったのだから。

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吾輩が入手を試みたのはマイルスが1970年代末から1980年代半ばくらいの時期に使用したマット・ブラックに金の彫刻が施されたものである。『DOO-BOP』のジャケットでマイルスが持っている赤いエナメル・コートのトランペットにも強く魅かれたが、吾輩はどうしてもBLACK&GOLDのものが欲しかった。できうれば、黒と青と赤のみっつすべてを。

しかし、吾輩の無謀無邪気馬鹿げた夢は泡の時代の終焉とともに泡沫と消えた。かわりに用意していた「資金」でKRELLのCDプレイヤーとMcIntosh MC275と木下モニターとマイクロ精機のターンテーブルを買った。もちろん、マイルス・デイヴィスのLPレコードのFirst IssueとCD音源のすべても。それでもまだかなりの額が手元に残っていたので、マイルスが好きだったフェラーリ、当時フラッグシップ・モデルだったテスタロッサを買ってやろうと思ったがそれには資金が足りなかった。

一連のことについては、いいかわるいかと言えばいい思い出ではある。もはやあの日々のような夢をみることはできない。やはり、夢は粉々に砕け散るものと相場は決まっている。だが、それでも、いまでも、吾輩は「We Want Miles!」であることに変わりはない。

何度でも言う。

We Want Miles! We Want Miles! We Want Miles!

御臨終の間際にも「We Want Miles!」と言えたなら、吾輩もいっぱしのマイルス・フリークだ。


マイルス・デイヴィスの左手が今夜も「So What? So What?」と誘っている。

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by enzo_morinari | 2013-02-09 00:30 | We Want Miles! | Trackback