一時帰宅した虹子はすぐに臥せた。痛みと吐き気と悪寒と不眠が虹子を苛んでいた。手のひらをのぞけば、肩と言わず、背中と言わず、腰と言わず、脚と言わず、撫でるようにさすっても虹子は痛みと不快を訴えた。
仕方なく虹子の手のひらを両の手で包み、時折、そっと撫で、わずかに力をこめて握った。すると、虹子はいまにも消え入りそうなか細い声で、「気持ちいい」とだけ言って束の間の眠りに落ちた。
虹子の薄っぺらい手のひらを包んだままわたしも眠りに落ちた。虹子のやすらかな寝息で目がさめたとき、灼熱と悪意を孕んだ夏の朝の成層圏からやってきた陽の光が、こちらをうかがうように窓辺で揺れていた。