隠れ家オーディオ

 
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籠もり部屋(隠れ家)ができた。昨夜は籠もり部屋の初日にして徹夜仕事だった。籠もり部屋の存在は誰も知らない。わが人生の同行者も知らない。ポルコロッソにだけは教えた。いまもすぐそばで寝息を立てている。

籠もり部屋を持とうと思い立ったときから籠もり部屋には必要最小限のモノしか置かないことを決めていた。机、椅子、冷蔵庫、グラスと食器類、PC、プリンター、そしてオーディオ・システム。机と椅子は arflex の中古が信じられないような値段で手に入った。冷蔵庫はビールとワインを冷やすために必要だった。1ドアのシンプルなものを確保。PCは Mac mini に決定。

問題はオーディオ・システムだった。CDもLPレコードもなしでいこうと思った。手持ちの音源は可能なかぎりMP3ファイルに変換し、Mac mini にバンドルされている iTunes で聴く。テーマは「総額5万円以内でニア・フィールド・リスニング用のシステムを組むこと」とした。目指すところは「オーディオの箱庭」だ。早い話が「PCオーディオ」である。

壮大さや豪快さや大音量で音のシャワーを浴びることは求めない。「重厚長大よ、さようなら」という方向性。かと言って、軽佻浮薄などでは無論なく、軽妙洒脱への明確な意志を失わないことが肝要である。

増幅器は中国製の小型軽量ディジタル・アンプの中に15000円前後で質の良いパーツを使ったいいものがわずかだがあるので、ディジタル接続を前提としてそれらの中から好みに応じて選んでもいいし、評価の高いNational Semiconductor社製のパワーアンプIC LM3886を搭載したものもやはり15000円を切る価格で入手できる。

ほかには、予算を多少オーバーするがTEACのA-H01(プラスチックの天板はまったくいただけないが)、中国製の朗韵D5も視野に入る。予算をかなりオーバーするし、初期の製品より内部配線の質の低下とパーツのグレード・ダウンが気になるがFlyingmole社のCA-S10も作り込みのよさから検討対象に値する。

2007年3月のリリースで現在はすでに生産完了となっているがSONYのディジタル・アンプのTA-F501はサイズ、デザイン、クオリティ、パフォーマンスともに素晴らしいのでいずれ手に入れようと思う。セコンド・ハンズ乃至は新古品でしか入手できないが。

悩んだのはスピーカーの選定である。仕事机の上に設置するのであるからコンパクトであることは必須条件だが、音質面で妥協することはできない。価格.com や amazon でリサーチし、ネット上にあるめぼしいオーディオ関連のサイトで情報を収集した。そして、YAMAHAのNS-BP200が最終的に残った。最安値で送料込み1ペア1万円を切る価格で入手できた。

アンバランスなようだがケーブル類にはおもいきって10000円ほどを投入した。スピーカー・ケーブルはNS-BP200付属のものは使うべきではない(NS-BP200に限らず、本体に付属しているケーブルは動作確認、初期不良チェックのためのものと考えたほうがいい)。ベルデン、アクロテック、モガミ、オルトフォンなどの中から好みに応じてチョイスする。このとき、ケーブル長は極力短くすることがいい結果につながるというのが経験上の結論だ。

ニア・フィールド・リスニング(NFL)においては機器のデザインや質感も重要である。NS-BP200(BP)は十分に条件を満たしている。「ウッドコーン」が売りのVICTOR SX-WD30も候補だったが「予算総額5万円」のテーマから考えて除外。最後にNS-BP200(BP)が残った。

NS-BP200は中低域再生の重要な要素である「容量」を稼ぐために深型のエンクロージャーを採用している。幅と高さに比べて奥行きが深い。本機は「非防磁型」なのでTV・ディスプレイ等の近くに設置するときは対策が必要な場合がある。

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音の第一印象はフラットでニュートラル。上品、上質。育ちの良さのようなものを感じる。音像定位は良好。低域はたっぷりとし、引き締まっている。スネア・ドラム、ハイ・ハット。金属と木が衝突したときのリアルな再現はほぼ満足。ピアノの粒立ち良好。

特筆すべきは中低域だ。やわらかな質感。ジャズ・ヴォーカルなどでの中域は表現力、質感ともに見事。アル・ディ・メオラとパコ・デ・ルシアの『Mediterranean Sundance』における火の出るようなギター・ファイトを臨場感たっぷりに再現したのには正直驚いた。弦の振動音だけではなく、胴体が鳴り響き、唸るさまをまざまざと聴き取ることができた。

死を目前にしたスタン・ゲッツがコペンハーゲンの「カフェ・モンマルトル」で行ったライブ盤中の『First Song』の再現は息をのむほどの生々しさで、3ヶ月後に死を迎えるスタン・ゲッツの凄絶なプレイと心の痛みが伝わり、不覚にも落涙を禁じえないほどであった。スタン・ゲッツは『First Song』で人々に彼のラスト・ソングを送り、別れを告げたのだということがこのとき初めてわかった。

1日5時間、2週間ほどでエージングはほぼ完了する。音の深み、響き、輝き、解像度、音場の広がりが明らかに向上する。決してじゃじゃ馬ではない。育ちのいいお坊ちゃまにして優等生である。

オーディオ機器の中には数ヶ月、数年、場合によってはそれ以上の年月をエージングにかけなければ本来のパフォーマンスを発揮しないものもある。このあたりがオーディオの難しさであり、醍醐味でもあるのだが、本機に限ってはエージングに関する難しさはないように思える。NS-BP200を使いこなすのはきわめて容易である。オーディオ・ルーキーからオーディオの古強者までを納得させうる実力の持ち主であると言える。

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音の濁りの原因のひとつである「不要共振」を防ぐためにもスピーカー本体とスピーカー設置面(床面)との間に適度な距離を確保することはセッティング上の絶対条件である。NS-BP200には3点支持の硬質な樹脂製脚部が備わっているが、さらに質のいいインシュレーターを使うことで確実に透明感と解像度が増し、低域の腰がすわる。

キャノンボール・アダレイの as が実に深々と朗々と鳴り響く。低域は解像度にやや物足りなさがあるものの、不足はない。高域は情報量がやや少ないという印象。W.マルサリスがハイノートをヒットするところではおぼつかないところがあったが、ペトルチアーニが ff をアタックする場面ではピアノが実は凶暴な楽器なのだということを思い知らされるような表現力を持ってもいる。

分解能及び原音忠実性は合格点を与えることができる。音像と音場感は明快にして明確で3次元的。エッジはきつくなく聴きやすい。音の厚みはそれほどない。温かみ、ヴォーカルの艶っぽさは充分に感じられる。

躍動感、伸びやかさ、溌剌さ、鮮烈さはないがバランスはいい。響きは適度。弦楽器もそつなくこなすが、残念ながら、「チェコ・フィルの松脂の飛び散る音」を聴きたい方に満足を与えるレベルには達していない。そういった御仁はそもそもPCオーディオには手を出さず、ピュア・オーディオに専念することをおすすめする。

金管楽器は力強さに欠けるが、無難な鳴らし方だ。木管楽器はまろやかで申し分なし。聞き惚れる。打込み系の表現は迫力不足を否めない。全体的にウォームすぎるきらいがあるが、これは開発者がチューニングに際してあえて意図したところだろう。

音場感は十分にあり、音像の定位、解像度、原音忠実性など、重要な評価ポイントにこれと言って大きな欠点は見あたらない。温かみと爽やかさを兼ね備えている。ただし、演奏者たちはクオリティを維持したままとはいえ一様にサイズ・ダウンする。それがニア・フィールド・リスニングの妙味でもあり、限界でもあるのだろう。庭園ではなく箱庭、森林ではなく盆栽という趣向をたのしむ心意気、心映えを持てるか否かということだ。

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ブラインド・テストでNS-BP200の価格を正確に言い当てられる者は皆無だろう。それくらいNS-BP200のコスト・パフォーマンスは高い。本機はYAMAHAの「戦略商品」のひとつであろうからコスト・パフォーマンスが高いのは当然だが、そのことを差し引いても桁外れにコスト・パフォーマンスが高い。誤解を承知で言えば、「なにか裏があるのではないか?」と下種の勘繰りをしてしまうほどである。

NS-BP200は1ランクどころか、2ランク3ランク上、システムやケーブル類の組み合わせ、セッティングいかんによってはさらに上の価格帯に属する機種とも互角の勝負ができるように思える。実際、大手メーカーの10万円を超える価格帯の製品の中には(当のYAMAHAのスピーカーの中にすら)本機の足元にも及ばないようなレベルのものが複数存在する。

2010年秋のデビューにもかかわらずほとんど値崩れを起こしていないことがNS-BP200の実力の証でもあるだろう。売れていることに便乗して無闇・無意味に後継機種を連発する「野蛮」「不毛」に手を染めないYAMAHAの姿勢にも好感が持てる。YAMAHAの意地、良心を垣間見る思いがする。

LE-8T-2ではなく、あくまでもLE-8Tというスタンス。フェライトではなく、なにがなんでもアルニコという姿勢、節度、一徹。かつての心あるオーディオ・ファイルたちがNS-BP200についていかなる感想を持つかという興味が湧く。

YAMAHAにはまちがっても「新素材採用」などと銘打った大仰・大袈裟・大上段に構えただけの上っ面、上っ調子な愚行は犯してもらいたくないものだ。ウーファーのコーンを白くされてもこちらは鼻白むだけである。

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NS-BP200はピュア・オーディオ、ハイエンド・オーディオのベテランがメイン・システムとは別に、PCを使うシーン、いわゆる「PCオーディオ」を組む際にシステムの中核とすることができるだろう。

蛇足であり、メーカー保証の対象外となる話だが、内部配線、出力端子、吸音材をカスタマイズするという楽しみ方もある。開発者が意図したチューニングの方向性とは別のオリジナル・チューニング、カスタマイズによって「世界にただ1台のNS-BP200」、NS-BP200(改)をつくることに専念すれば、愚にもつかぬ政治屋どもやあさましい木っ端役人どもにいいように弄ばれている憂さを一時でも忘れられるかもしれない。

マグネット着脱式のサランネットは弦楽器の形状を模したものらしいがまったくいただけない。使わないほうがスマート&クールだ。ピアノ・フィニッシュ調の仕上げは埃や手あかなどの汚れが目立つが、こまめにメンテナンスしてやればさらに愛着が湧くだろう。

「Made in China」ではなく、「Made in Indonesia」。このことは評価ポイントである。ちなみに、NS-BP200の上位機種にNS-B750があるが、こちらも素晴らしいパフォーマンスを発揮する。拙宅の映画鑑賞用音響機器の主役である。筆者にオーディオにおける重厚長大路線からの脱却を決意させたスピーカーだ。実売価格30000円(1本)ほどで入手可能である。筆者がオーディオという魔道に血道を上げていた1980年代ならNS-B750のパフォーマンスとクオリティと作り込みのスピーカーは1ペアで20万円代後半の値づけがされていたはずだ。「年々歳々花相似たり、歳々年々オーディオ同じからず」とでもいうことか? NS-B750についてもいずれ触れる機会があるだろう。

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その昔、CDを中心としたディジタル・デバイスが世の中を席巻しはじめたとき、ある高名なオーディオ・ファイルは「いずれ、大脳辺縁系にデバイスを直付けするような時代がやってくる」と言って嘆いていたが、iPodの出現によってそれは現実味を帯びてきていると感じる。CDすらも「時代遅れ」になりつつある。

あらゆる「形あるもの」は0と1のディジタル・データに変換され、電子の海を縦横に、自由自在に泳ぎまわる世界。人はそれを極楽浄土と言い、天国と呼ぶかもしれない。そのときに再生され、鳴り響くのはいったいどのような音楽、音なのか? 深夜、人々が寝静まり、世界が深い闇の底に沈んだ時分、iTunesによって再生された今は亡きジャン・ミシェル・ミゴーの畢生の大作、『死と再生』をNS-BP200で聴きながら考えるのも悪くない。

くだんのオーディオ・ファイルは米寿をとうに過ぎたいまも矍鑠とし、ケンリック・サウンド社によって徹底的にレストアされたJBLパラゴンとマッキントッシュMC275と光悦でベニー・グッドマンの『Memories of You』のEP盤を聴いていると風の便りがあった。いつの日か、老オーディオ・ファイルのシステムで『風の歌』を聴くことができたらいい。そのときはNS-BP200を持参しようと思う。

陽もすっかり落ちた。もうひと仕事ふた仕事片づけたあとは、ポルコロッソを相手にナイト・キャップを何杯かひっかけて長い夜をやりすごすことにしよう。iTunesのスマート・プレイリストの中から『あなたと夜と音楽と』をチョイスしてPlay it. 1曲目は ”マンハッタンの吐息” 、リー・ワイリーの『Night in Manhattan』だ。

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(リファレンス機材)
System1: Linn CD12→Cardas Golden Reference(1.0m R/L)→Krell KSL→Cardas Golden Reference(1.0m R/L)→McIntosh MC275(×2 バイアンプ駆動)→Esoteric 7N-S20000 MEXCEL(2.0m R/L)→Sonus Faber STRADIVARI Homage

System2: Krell CD-DSP→Ortofon Reference(1.0m R/L)→A&M AIR TIGHT ATC-1 LIMITED→Ortofon Reference(1.0m R/L)→A&M AIR TIGHT ATM-2→Ortofon SPK-4500 SILVER(1.2m R/L)→Acoustic Energy AE2

System3: SONY CDP-X5000→Ortofon Reference(1.0m R/L)→SONY TA-F5000→Ortofon SPK-4500 SILVER(1.2m R/L)→YAMAHA NS-B750(BP)

System4: Mac mini(Mid 2011)→Ortofon Reference 6NX-MPR30/M-RCA(1.2m)→ 朗韵D5(TAS 5162) →MOGAMI 2804(0.7m R/L)→YAMAHA NS-BP200(BP)

註: System1、System2、System3にはそれぞれYAMAHA NS-BP200(BP)を接続しての視聴も併せて行った。再生機器としてMac mini(Mid 2011)を用い、iTunesでの再生も同時に行った(音源のレート: 256kbps/44.100kHz)。なお、System4については、Mac mini(Mid 2011)に換えてLinn CD12によるCD再生の視聴も行っている。System4が本稿に即したシステムだが、朗韵D5のほかにNational Semiconductor社製のパワーアンプIC LM3886を搭載したYS1やTripath社製のディジタル・アンプIC TK2050が搭載された機種という選択肢もある。Mac mini(Mid 2011)はオプティカルによるディジタル出力が可能なので、ディジタル・アンプとディジタル接続したときにいかなるパフォーマンスを見せるかは興味ある課題のひとつである。問題はまともな mini-TOSLINK→TOSLINKケーブルがこの世に存在しないことだ。自作する以外に手がないのが現状である。「予算総額5万円」の中にMac mini(Mid 2011)は含まれていない。


(リファレンス音源)
Grover Washington, Jr./Wine Light
Pat Metheny & Lyle Mays/As Falls Wichita, So Falls Wichita Fall
Pat Metheny/Bright Size Life
Pat Metheny Group/Travels
Pat Metheny & Charlie Haden/Beyond the Missouri Sky(Short Stories)
Al Di Meola/Mediterranean Sundance
Michael Hedges/Aerial Boundaries
Lee Ritenour/Wes Bound
Julian "Cannonball" Adderley/Somethin' Else
Michel Petrucciani/Live At The Village Vanguard
Michel Petrucciani & Niels-Henning Ørsted Pedersen/Petrucciani & NHØP
Keith Jarrett & Michara Petri/J.S. Bach: Six Sonatas
Keith Jarrett/The Melody At Night, With You
Eliane Elias/Something for You
Miles Davis/TUTU
Miles Davis/Doo-Bop
Stan Getz & Kenny Barron/People Time(Live at Café Montmartre)
Wynton Marsalis /Standards & Ballads
Chris Botti/Night Sessions
Marcus Miller/M2
Lee Wiley/Night in Manhattan
Sarah Vaughan/Crazy and Mixed Up
Rod Stewart/The Great American Songbook
Itzhak Perlman + Oscar Peterson/Side By Side
Itzhak Perlman/Theme from Schindler's List
Wynton Marsalis & Philharmonia Orchestra of London/Tomasi: Concerto for Trumpet & Orchestra
Willem Mengelberg - Concertgebouw Orchestra Amsterdam/St. Matthew Passion BWV 244
Karl Böhm - Vienna Philharmonic/W.A. Mozart: Requiem
Mstislav Rostropovich/J.S. Bach: Cello Suites
Andrés Segovia & John Williams/Segovia and Williams: Guitar Virtuosos Play Bach
Jean-Michel Migaux/Mort et Reproduction
渡辺香津美/DOGATANA
ゴンチチ/ANOTHER MOOD
ゴンチチ/脇役であるとも知らずに
ゴンチチ /アンダーソンの庭
吉田美奈子/Extreme Beauty
松任谷由実/昨晩お会いしましょう
 
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by enzo_morinari | 2013-11-04 17:24 | 流儀と遊戯の王国 | Trackback
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