女の亡骸を埋めてすぐに
崩壊した時間を追いつづける男、蝿の王/ゴールディー・ベルゼビュートがやってきた。
「まただれか死んだのか?」
「そうだ」
「どうした? 人が死ぬのは当然だし、死ぬことなんか、この街では空き缶とおなじくらいにどこにでも転がっている話じゃないか。そんな深刻な顔になるほどのことではないだろうが」
「昔々の大昔に一緒に暮らしていた女だ」
「ほうほう。その話のつづきには
崩壊した時間は登場するか?」
「さあね。ひょっとしたら、おまえさんが探し求め、追いつづけている
崩壊した時間とやらがみつかるかもしれないな」
蠅の王が身を乗り出す。
「詳しい話を聴かせてくれよ。話の続きを」
「ガンスリンガー・ガール」
「なに?」
「ガンスリンガー・ガールだ。拳銃無宿のお嬢さん」
「おもしろそうだな」
「つきあうか?」
「ああ。ここのところ、つまらぬ死体ばかりで退屈していたところだ」
「おまえさんらしいな」
「屍体はあるんだがな。死体がない。完璧な死をまとった死体が」
「これから山ほどお目にかかれるだろうさ」
焚火にかけていた小鍋からドッグフードの空缶で煮詰まったコーヒーをすくい、蠅の王に差しだした。
「ありがてえ」
蠅の王、ゴールディー・ベルゼビュートが相好を崩して糞まずいコーヒーを飲むのを見ながら、次の一手を考えた。まずは女の遺品をあらためることからだ。