真言の音楽#6 First Song, Last Song/スタン・ゲッツ&ケニー・バロン『PEOPLE TIME』

 
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ファースト・ソングにしてラスト・ソング。重要なのは「死生観」である。「死生観」のない者を信用することはできない。 E-M-M


1991年6月6日、スタン・ゲッツは逝った。22年が経つ。享年64歳。肝臓癌。長い闘病の末の死だった。

つい先日、手持ち無沙汰にみた『ベニー・グッドマン物語』の中に一瞬、若き日のスタン・ゲッツをみつけたときはなつかしさがこみ上げるとともに涙がこぼれるほど心が揺れ動いた。遠い昔に死んだ友と再会したような気分だった。

死の3ヶ月前、ゲッツは『PEOPLE TIME』という美しい奇蹟を残した。ラスト・コンサートのライブ・レコーディング。どの曲にも死を覚悟した人間にのみ到達しうる透徹した透明感と美しさがあふれている。「無人島レコード」なる能天気とは異なるが、「死ぬ前に聴いておきたい音楽」のうちのひとつが、スタン・ゲッツの『People Time』だ。

共演者のケニー・バロンのライナーノーツによると、「『カフェ・モンマルトル』におけるスタンのプレイはいつになく好調で、すべてのソロに全力投球していた。しかしふと目をやると、彼はひとつのソロを終えるたび息を切らしていた。彼の体調が良くないことは一目瞭然だった」とある。『PEOPLE TIME』は文字通り命を削って刻んだ最後の白鳥の歌なのである。特に『First Song』は切々と響きわたり、心を揺るがせてとまらない。

1991年3月3日から6日までの4日間のコンサートを収録した『PEOPLE TIME』はスタン・ゲッツの遺作である。死の3ヶ月前にコペンハーゲンのジャズクラブ「カフェ・モンマルトル」におけるピアニストのケニー・バロンとのデュオのライヴ盤。わが子を亡くした中原中也は『在りし日の歌』という宝石を残したが、スタン・ゲッツは『People Time』という珠玉をもたらした。このライヴの3ヶ月後、6月6日にゲッツは世を去った。

1927年生まれ。19歳で初レコーディング。生涯を通じて発表されたアルバムは100枚近くあり、マイルス・デイビス並みだ。スカンジナビア・ビューティーと結婚するが、離婚。離婚後、生涯にわたって莫大な慰謝料を払わされつづけ、いつも財布の中は空っぽだったと言われる。マイルス・デイヴィスにも匹敵する数のレコードを出しながらタバコ代にも事欠くほどだった。『GETZ/GILBERTO』をはじめとする数々の大ヒット作があるにもかかわらず、金に困ってピストル強盗をしたという伝説さえある。

『PEOPLE TIME』は癌の痛みをこらえながら演奏した生涯の最高傑作、畢生の1枚となった。死期が迫り、鬼気迫るというより達観した人生の「痛み」「苦しみ」「悲しみ」を朗々と謳いあげている。テナー・サックスの巨人がジョン・コルトレーンとソニー・ロリンズなら、ゲッツはテナーの粋人だ。スタン・ゲッツは20世紀を疾風のように駆け抜けた。

やわらかく暖かな音色とフレージングは健在だが、『PEOPLE TIME』には『GETZ/GILBERTO』の頃のようなはちきれる陽気さはもはやない。そこには死を覚悟した者の静かな「諦念」が横溢している。一音一音がゲッツの別れの言葉に聴こえる。とりわけて心打たれるのは、チャーリー・ヘイデン作の『First Song(For Ruth)』だ。葬送の曲とも鎮魂の歌とも聴こえる。

死を目前になにを考え、なにをするか? ときどき、そんなことを考える。もちろん、答えなど出ない。加賀乙彦の『宣告』を書棚から引っぱりだし、ページをめくってみるが、やはり答えは出ない。いつのまにかスタン・ゲッツの『PEOPLE TIME』に手が伸びている。そして、繰り返し聴く。聴きながら、死生観について思いをいたす。涙はいくらでもこぼれてくる。これだけの涙は一体全体どこにあったのだと思うくらいに。

こぼれた涙の意味を考える必要などないし、感傷的であることは少しも恥ずかしいことではない。負い目でもない。挫けてしまうこともだ。死も。死は敗北ではない。「First Song/初めてのうた」が「Last Song/最期のうた」なのだと思うことができれば、死もまた生の一部なのだと覚悟できるのだが。

スタン・ゲッツが『First Song』で彼の『Last Song』を歌っている。人々に別れを告げている ── 。


PEOPLE TIME(Live at Cafe Montmartre) - Stan Getz & Kenny Barron(1991)
Stan Getz(ts)/Kenny Barron(pf)/Recorded live at Cafe Montmartre, Copenhagen, Denmark on March 3-6, 1991.

DISC 1
1. East of the Sun (And West of the Moon)/Brooks Bowman(9:29)
2. Night and Day/Cole Porter(8:16)
3. I'm Okay/Eduardo del Barrio(5:24)
4. Like Someone in Love/Johnny Burke+James Van Heusen(8:02)
5. Stablemates/Benny Golson(8:47)
6. I Remember Clifford/Benny Golson(9:04)
7. Gone With the Wind/Herbert Magidson+Allie Wrubel(7:12)

DISC 2
1. First Song (For Ruth)/Charlie Haden(9:55)
2. There Is No Greater Love/Isham Jones+Marty Symes(8:36)
3. The Surrey With the Fringe on Top/Oscar Hammerstein II+Richard Rodgers(9:22)
4. People Time/Benny Carter(6:14)
5. Softly, As in a Morning Sunrise/Oscar Hammerstein II+Sigmund Romberg(7:54)
6. Hush-A-Bye/Sammy Fain+Jerry Seelen+Ambroise Thomas(9:33)
7. Soul Eyes/Mal Waldron(7:32)


参考

People Time: The Complete Recording/Stan Getz & Kenny Barron

Disc1
1. Stan Getz Announcement
2. I'm Okay
3. Gone With The Wind
4. First Song
5. Allison's Waltz
6. Stablemates

Disc2
1. Autumn Leaves
2. Yours And Mine
3. (There Is) No Greater Love
4. People Time
5. The Surrey With A Fringe On The Top
6. Soul Eyes

Disc3
1. Tuning
2. You Don't Know What Love Is
3. You Stepped Out Of A Dream
4. Soul Eyes
5. I Wish You Love (Que Reste T-Il De Nos Amours)
6. I'm Okay
7. Night And Day

Disc4
1. East Of The Sun - Live
2. Con Alma
3. People Time
4. Stablemates
5. I Remember Clifford
6. Like Someone In Love
7. First Song
8. The Surrey With A Fringe On The Top
9. Yours And Mine

Disc5
1. The End Of A Love Affair
2. Whisper Not
3. You Stepped Out Of A Dream
4. I Remember Clifford
5. I Wish You Love (Que Reste T-Il De Nos Amours) - English Version Albert Beach
6. Bouncing With Bud
7. Soul Eyes - Live - Instrumental
8. The Surrey With A Fringe On The Top

Disc6
1. East Of Sun (And West Of The Moon)
2. Night And Day
3. First Song
4. Like Someone In Love - Live - Instrumental
5. Stablemates
6. People Time

Disc7
1. Stan Getz Announcement
2. Sofltly As In A Morning Sunrise
3. I Wish I Love (Que Reste T-Il De Nos Amours) - English Version Albert Beach
4. Hush-A-Bye
5. I'm Okay
6. Con Alma
7. Gone With the wind
8. The Surrey With A Fringe On The Top
9. Night And Day - Engineer Soundcheck


Stan Getz - First Song (For Ruth)『PEOPLE TIME(Live at Cafe Montmartre)』
 
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by enzo_morinari | 2013-06-28 04:04 | 真言の音楽 | Trackback
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